地元企業の社長に聞いた!「もったいない」から始まった挑戦

「水産高校を出ても、水産業には就職しない」──焼津という水産の町で、そんな現実が起きています。一方で、持続可能な社会を目指す動きが世界中で加速する中、焼津で三代続く水産会社・山福水産は独自の挑戦を続けています。
三代目社長の見崎氏は、焼津生まれ焼津育ち。学生時代は「どうやって遊ぶかしか考えてなかった」と笑う、気さくで率直な人です。約8年前、「もったいない」という想いから、魚の残りを肥料にして米を作る循環型ビジネスをスタート。「意識高い系の子だけじゃなくてね」「1000人に1人でいい」──見崎社長の言葉には、すべての若者への想いが込められています。

今回は、山福水産の見崎社長に話を聞きました。

魚の残りが米になる!? 水産業の未来を変える社長の想い

「もったいなくねえかな?」

山福水産の見崎社長は、魚を加工した後の残り(頭や尾、内臓、骨、皮)を前にそう思ったそうです。300円で買った魚の、食べられる部分は半分もない。残りはわずか20円で業者に売るだけ。
その「もったいない」という想いが、約8年前、新しい挑戦のスタート地点になりました。
今、山福水産は単なる水産会社じゃありません。魚の残りを肥料にして米を作り、3年前には焼津ポーターズにおむすび店「こめふく」を出店。循環型のビジネスに挑戦しています。
そして、地域の中高生に向けて、水産業の魅力を発信し続けているんです。
焼津で生まれ育った三代目社長が見つめる、水産業の課題と可能性。「もったいない」という言葉に込められた、前向きな想いとは?

祖父の代から続く、焼津の水産業

山福水産は、見崎社長の祖父が創業した会社です。最初は焼津市場で、お客さんの注文に応じてマグロやカツオを買い付ける仕事が中心でした。
父の代で、魚の加工にも進出。
カツオのたたきの加工や、冷蔵庫事業を本格的に始めたんです。
祖父の代から数えれば、長い間焼津の水産業を支えてきた会社。でも、見崎社長はそこで満足しませんでした。

300円の魚が投げかけた疑問

工場で毎日、たくさんのマグロやカツオを加工する中で、見崎社長はある現実に気づきました。
魚を加工すると、頭、尾、内臓、骨、皮といった「食べられない部分」がどうしても出てしまいます。
今までは、これを業者に引き取ってもらって、乾燥・粉末化して家畜の餌にする。それで終わりでした。
でも、見崎社長はそこに違和感を持ったんです。
1kgあたり300円で仕入れた魚。でも、実際に食べられる部分は半分以下。
つまり、食べられる部分だけで考えれば、実質的には1kgあたり600円以上かかってるってことです。
そして、300円分の価値があるはずのものを、わずか20円で手放している。

「もったいなくねえかな?」

見崎社長の疑問は、こういうことでした。もし300円の魚が、ちゃんと300円の価値として認められたら? 残りの部分にも適正な価値をつけられたら? 全体としての価値を下げずに済むんじゃないか。この発想が、循環型ビジネスの出発点になったんです。

魚→肥料→米→おむすび。循環の輪を作る

もちろん、魚の残りをそのまま食べることはできません。でも、別の形で価値を生み出すことはできるはず。
加工で出た残りを使って何かを作る。それを適正な価格で売る。そうすれば、元の魚の価格を無理に上げなくてすむんじゃないか──。
約8年前、見崎社長はこの構想を実行に移しました。加工残渣を肥料にして、米作りに活用するプロジェクトです。魚の残りから作った肥料で、米を育てる。そして3年前、その米を使ったおむすび店「こめふく」を焼津ポーターズに出店しました。
魚を加工する→残りを肥料にする→米を育てる→おむすびを作る→お客さんに食べてもらう。循環の輪が、一つの形になったんです。

今は理想の形になってるんですか?

「まだそこまでには至ってないですけれどもね」

見崎社長は謙虚に笑います。でも、その表情からは諦めじゃなくて、「まだまだこれから」っていう前向きな気持ちが感じられました。

水産業が「最後に選ばれる」現実

山福水産は、まるの活動に協賛したり、まるの福袋に商品を提供したりしています。
協賛に踏み切った理由を聞くと、見崎社長は少し照れたように答えました。正直な話、そこまで大きな負担じゃなかったこと。それが一つ。でも、本当の理由は別にありました。

「子どもたちに対してっていうところですよね」

中高生に、地元企業を知ってもらう。その活動を実際に形にしている。それが、見崎社長の心を動かしたんです。
そして、見崎社長は焼津の現実を語り始めました。
焼津は水産の町。でも、水産業は「一番最後に選ばれる職業」になっちゃってる、と。
例えば、県立焼津水産高等学校。県のお金で運営されてる水産の専門高校なのに、卒業生の就職先は自動車メーカーだったりする。

「違うだろ」

見崎社長の言葉が、重く響きました。
もちろん、進路は自由です。水産高校を出ても、どこに就職するかは本人の選択。でも、「やっぱり水産が選ばれない」っていう現実がある。
選ばれないのは、業界側のアピールが足りてないからじゃないか。そう見崎社長は考えてるんです。

「臭い」「汚い」を否定できない

なんで水産が嫌がられるんですか?

この質問に、見崎社長は正直に答えてくれました。
工場で働くってことでいえば、自動車工場も水産工場も、本質的には変わらない。扱うものが違うだけ。じゃあ、なんで水産が嫌がられるのか。
臭くなる、汚い。水産業に対するマイナスのイメージが、どうしても強いから。

「まあそういった事実はありませんとは僕らも言えないので」

ここが、見崎社長の誠実なところ。「そんなことない」って否定するんじゃなくて、「完全には否定できない」って認めるんです。
実際、魚を扱えば臭いはつく。加工場は、キレイとは言いづらい部分もある。その現実から目をそらさず、でも、それでも伝えたいことがある。
どんな想いで、どんな取り組みをしてるのか。それを知ってもらえれば──。

「この仕事がやりたい」じゃなくて、「山福水産で働きたい」。そう思ってもらえる会社にしたい。

今、広報担当の奥村さんが中心になって、会社の魅力発信に力を入れてます。会社の想いや取り組みを伝えること。
それが、人材確保のカギになると、見崎社長は信じてるんです。

「1000人に1人」でいい

見崎社長の採用戦略は、とても現実的です。

「1000人いりゃ、一人ぐらいは入ってもいいかなって思う人いるかもしれないじゃない」

1000人に1人でいい。無理にたくさんの人を採用しようとは思ってない。
山福水産は大企業じゃありません。100人、200人の採用が必要なわけじゃない。少数でいいから、本当に会社に共感してくれる人に来てほしい。
今すぐ就職につながらなくてもいい。頭の片隅に残ってくれれば。そして、誰かが仕事を探してる時に、「あの会社、面白いことやってるよ」って声をかけてもらえれば。
口コミ、紹介。知り合いからの一言。それが、一番の採用ルートになるって、見崎社長は考えてます。

中高生のあなたへ──見崎社長からのメッセージ

この新聞を読んでる中高生に、何かメッセージがあれば

見崎社長は少し考えてから、ゆっくりと話し始めました。

「本当にやりたいことを持って学生生活送ってる子なんて、すごく一握りだと思うんですよ。俺自身、俺の時もそうだったし」

明確な目標を持って学生生活送ってる子は、ほんの一握り。見崎社長自身もそうだった。だから、無理に目標を持つ必要はない。

「いろんなものを見なさいと、いろんなことしなさいと」

目標を無理に作るより、いろんなものを見る。いろんなことをする。そうしてるうちに、なんとなく自分のやりたいことが見えてくる。
そして、見崎社長は具体例を挙げました。
広報の仕事がしたいって思った時、多くの人は電通や博報堂みたいな大手広告代理店を思い浮かべるかもしれません。
でも、決してそこに行かなきゃいけないわけじゃない。
トヨタじゃなくても、地元の自動車会社でも同じような仕事ができるかもしれない。特定の会社に行かなきゃダメ、ってことは絶対にない。

「どんなところでやっても、何やったって、要はそこの中でどんだけ自分がやれるか、やっていけるかっていうところが大事」

どこで働くかよりも、そこでどれだけ自分が動けるか。それが大切。

「いろんなものをとにかく見て選択肢を広げてほしいなと」

見崎社長のメッセージは、シンプル。いろんなものを見てほしい。それだけ。
でも、その「いろんなものを見る」っていう経験が、人生の選択肢を広げていく。山福水産みたいな地元の会社を知ることも、その一つなんです。

取材を終えて

見崎社長の話、めちゃくちゃ心に刺さりました。

大学生活中にふつう聞けない話を、社長から直接聞くことができて、とてもいい経験で、特に印象に残ったのが、まるを支援していただいている理由の中にあった「未来の選択肢を増やす」という言葉です。まったくその通りだなぁと感じながら、インタビュアーとして話を聞いていました。

そして「いろんなものを見ること」という言葉も。大学生になってからいろんなものを見ることも大事だけど、中高生の間にいろんなものを見たり聞いたりする経験を与えてくれる見崎社長がいること、焼津の未来をしっかりと考えてくれている社長がいることを発見でき、焼津のことがさらに好きになりました!

山福水産株式会社
所在地:静岡県焼津市
事業内容:マグロ・カツオの買い付け・加工、冷蔵庫事業、米作り、おむすび店「こめふく」運営
主力商品:カツオのたたき(しっかりめに焼いて炭の香りを引き出すのが特徴)
特徴:加工残渣を肥料化して米作りに活用する循環型ビジネスに挑戦中。
   約8年前にスタート、3年前におにぎり店「こめふく」を出店。地域の若者支援にも積極的に協力。
代表取締役:三崎氏
出身:焼津市

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